本記事は、私がB1のときに共同ブログに書いていた水素原子の波動関数を導出するシリーズのうち、三次元極座標ラプラシアンを導出する部分を移植したものである。
三次元極座標ラプラシアンを手計算で導出し一日を棒に振るという過ちを二度と犯さないため、ここに供養を行う。
お久しぶりです。東工大1年のじすぷろしうむ(@dy66th)です。
大変遅くなりました。『理工系学生のための基礎化学 量子化学・化学熱力学』の量子化学のほうの行間を埋める記事、第二弾は第四章『水素原子』を扱います。内容が多いのでたぶん前後編になるはずです。シュレディンガー方程式を知っている前提で説明を行うので、心配な方は前回記事 (注 現在は閲覧不可)もあわせてご参照ください。
シュレディンガー方程式を極座標に直そう!
言いたいことは分かります。なんでわざわざ求めた式をさらに変形しないといけないのか。しかし、これには明確なメリットがあります。というのも、原子核の作る電位は球対称であり、極座標にしておけば原子の軌道が比較的シンプルに表せるからです。一応大学数学未履修の人のために三次元極座標の説明をしておくと、高校でやった二次元極座標にz軸からの角度を増やしたものです。画像の通り、の定義がちょっと違うので注意してください。
直交座標とはこのような関係式が成り立ちます。
この後使うのでヤバくなったら確認してください。
さて、前回求めた時間を含まないシュレディンガー方程式は
でした。(ラプラシアンは戻しました。)さて、我々がやることは、この中のを含む項、つまり偏微分をを含む形に直してやることです。正攻法でもできないことはないですが、一回やったところ計算で発狂したのでボツになりました。二度とやりたくないですしここで紹介すると誰も読まないことは火を見るより明らかです。なので今回はベクトル解析を使ったもう少し見通しのいい方法をご紹介します。そのために、まずナブラ演算子を導入します。
これは、
というもので、言うなれば微分演算子をベクトルっぽく並べたものです。これがなぜ嬉しいかというと、スカラー(ただの数)のと掛けたりベクトルのと内積を取ったりすると
といったように、既存の表記を拡張することでいろいろな演算子に化け、そしてどれも割と有用だからです。電磁気学をやるといっぱい出てきます。さて、そんなですが、自身と内積を取るとどうなるでしょうか?
そうです。ラプラシアンになります。今回の解法では、ナブラを求めて内積を計算することによってラプラシアンを求めます。
手始めにまず、分かりやすさのためにを以下のように表記します。
ここではその方向の単位ベクトルです。単位ベクトルは偏微分にかからないように前に出しましょう。ミスると大変なことになります。(一敗)
ここで、これを極座標表示に変形します。
まず、どうにかしてをに直して上の式に突っ込みます。角度方向の単位ベクトルってなんだよという話が発生しますが、位置ベクトルをとおくと要するに
のことです。角度が微小変化した時の接線方向のベクトルになっているわけですね。最初に提示した式により、これは以下のようになります。
従って、
となります。これをゴリっと計算すると、
となります。(注:ユニタリ変換となっているので、逆変換は逆行列をかけてやればよい) 行列で表記すると
となりますね。ここの右端の3×3行列を基底変換行列Pとおくと、これは正規直交基底同士の変換なのでPは直交行列になります。なにを言っているかわからない方は一旦スルーしてもらって構いません。たぶん線形代数学第二でやります。
次に、偏微分のほうをどうにかします。
まず手始めに連鎖律で偏微分をバラします。未修の人には難しいかもしれませんが、やってることは合成関数の微分の多変数バージョンです。すると、
となります。なんか順番が変なのは、これがもともとを微分するための演算子だからです。つまり、となれるように後ろをわざと開けているわけですね。続けましょう。
従って、最初の式は
となります。行列形式で表すと、
となります。カンのいい方はお気づきかもしれませんが、この3×3行列はPの転置行列になっています。Pは直交行列でしたから、この積は単位行列になるはずです。よくわからない方は計算すればそうなることがわかると思います。
従って、
となります。これで下準備は完了です。長い気もしますが正攻法よりはマシです。頑張りましょう。最後にラプラシアンを出します。
ここで、基底同士は直交だから内積0だぜヤッター!で話が終われば楽だったのですが、そうは問屋が卸しません。というのも、は角度によって向きが変わる、つまりの関数だからです。従って、これらで偏微分すると余計な項が発生します。問題の発生しそうな部分をみておきましょう。
細かい計算はとかの式のところ(基底の変換をしてたあたり)を偏微分してやれば従います。
あとはこれを積の微分に注意して(式の一番後ろに見えないがいるつもりで)ゴリっと計算してやると、かなりの項がバッサリ消え
となります。これを最初のシュレディンガー方程式に代入して、水素原子における電子のポテンシャルエネルギーが核電荷によるで表されることを踏まえると、水素原子のシュレディンガー方程式はこうなります。
これでようやく水素原子の議論の準備が整ったわけです。
(続きます)
参考にしたもの
[1]小出昭一郎著 量子力学
[2]極座標のラプラシアンの出し方いろいろ http://irobutsu.a.la9.jp/PhysTips/Lap.html